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SUNDAY TALK2012

第2回:もうそっとしておきましょうよ(2012年〔平成24年〕1月8日公開)

※今作は賛否両論あることを記しております。ここで記していることは私なりの意見であり、世間の潮流に抗することもいくつか書いております。そういう意見を見て私宛に抗議など一切しないようにお願い致します(抗議したとしても一切取り合いませんので悪しからず)。

 昨年8月23日夜、暴力団関係者との交流を所属芸能事務所に知られ、事情を聞かれたことを契機に「後輩に対して示しがつかない」などと言って電撃引退した元タレントの島田紳助について所属芸能事務所の社長が復帰を希望していると発言したという。芸能界でも復帰を望む声は少なくないというのだが、なぜそのような声が出るのか背景は理解できないわけではないものの私はどうかと感じている。その理由を挙げると次のようになる。

1 所属芸能事務所側も世間に対して示しのつかないことをしていること

 所属芸能事務所の社長が復帰を希望しているということはこの事務所は島田紳助の暴力団関係者との交流を把握し、事情を聞いた時点では懲戒解雇処分にしていなかったことが明らかになる。恐らく何ヶ月間かの謹慎で事が済めば良いと思っていたのだろう。しかし、結局は電撃引退の道を選んだ。相当な衝撃が走り、狼狽する関係者も少なくなかったことは想像に難くない。
 しかし、世間は暴力団関係者と交流を持った人間を排除する傾向にある。例えば「NHK紅白歌合戦」(NHK総合テレビなど)では暴力団関係者と関係があった歌手の出演を取りやめさせた例が過去に何度か起きているし、暴力団関係者と関係があったことが分かったために謹慎処分を受けたタレントは少なくない。まあ引退に追い込まれた例はあまりないのではないかと思うのだが、所属芸能事務所の社長の発言はこの潮流に逆行することになる。よって、私は好ましいとは感じない。
 ところで、今でも私には分からないことがある。なぜ暴力団関係者と交流を持つことがいけないことなのかということである。当然のことながら私自身は一切そういう方々との関係は持っていないのだが、次に挙げる観点からどうかと考えるのである。
・基本的人権を侵す恐れがあること。
・排除すればますます社会との壁が高くなり、孤立する存在になる恐れがあること。
・交流があったからといって触法行為に手を染めるわけではないこと。
・もし暴力団関係者との交流がダメというのなら世間が疎ましく思うその他の存在、例えば新興宗教や右翼、過激派、新興有名企業(注1)、悪徳商法を行う会社の関係者との交流も咎められるべきではないかと思うこと。
・暴力団がらみの書籍(あるヤクザの一生を紹介したものとか暴力団関係者の名言を載せたものなど)は今でも多数発売されているし、暴力団関係者を取り扱った映画(注2)も多数作られていること。
・ある時期まではヤクザの親分が国会議員になるという話もあったこと。
・学校で暴力団関係者の子供や暴走族に入っている人と同じクラスになる場合があること。
 何をここで書いているのかと批判されそうだが、要するにいくら暴力団関係者との交流はダメとしたとしても関係を絶つことは絶対にできないのである。むしろ事態を悪化させる恐れすらあるのである(注3)。もし犯罪行為に手を染めないなら大目に見るという考えが多勢を占めるなら所属芸能事務所の社長の思いを容認する人は多くなることであろうが、恐らくそういうことにはならないだろう。だからここは「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」以外に方法はないと言えよう。

2 週刊誌やスポーツ紙、タブロイド紙の恣意的な報道で著しく心身や名誉を傷付けられたこと

 島田紳助は昨年8月23日夜の会見以降全く表舞台に姿を見せることはしていない。しかし、その日以降の特に週刊誌やスポーツ紙、タブロイド紙の報道の在り方はどうなのかと思っている。島田紳助を追っかけ回してその姿を隠し撮りしたことや「全財産を暴力団にむしり取られる」とか「近く逮捕される」というような根も葉もないことを伝えたことなどもうそっとしておくべきなのに報道は加熱している。その報道を島田紳助自身は快く感じていないことであろうが、同時に深く心身や名誉を傷付けられたことは想像に難くない。
 私は思うのだが、なぜ週刊誌やスポーツ紙、タブロイド紙は有名人を恣意的な報道で貶め、深く心身や名誉を傷付けようとするのだろうか。島田紳助の電撃引退の少し前にあった阪神タイガースの金本知憲(かねもと・ともあき)外野手の刑事告訴報道などそういう事例は枚挙に暇がないのだが、部数を稼ぎたいからそのようにするのだろうか。ならば私は言いたいのだが、もしこの恣意的な報道が原因で精神を病んだり自殺したりしたら赤飯を炊いて喜ぶのか。ビートたけし(北野武)のように恣意的な報道に憤慨して出版社または新聞社の編集部に殴り込みに入り、そこにいた記者や従業員が殴られても自分達は正しいことをしたと胸を張って言えるのか。「報道の自由だ」と言い張るのだろうが、そういうことをするための報道の自由はないことを悟るべきではないのだろうか。部数稼ぎのために確たる証拠もなく一市民になったタレントを追いかけ回し、根も葉もないことを書くのはやめるべきである。

3 島田紳助を許すなら他のタレントも許すべきだという声が出かねないこと

 島田紳助の所属していた芸能事務所では2009年(平成21年)にお笑いコンビ・コメディNo.1(2009年〔平成21年〕解散)のメンバー・前田五郎を解雇している。中田カウスに対して脅迫状を送り付けたとされたからであるが、前田五郎自身は関与を一切否定している。
 まあ前田五郎というタレントの知名度は島田紳助ほどではないのだが、脅迫事件に関与していないと主張するタレントが許されず、逆に暴力団関係者と交流があったことを芸能事務所に知られ、事情を聞かれた後に「後輩に対して示しがつかない」などと言って電撃引退したタレントが許されるのはどのように考えてもおかしいのではないのだろうか。しかも前田五郎はこの芸能事務所に対して損害賠償を請求しているのである(結果は棄却)。恐らく島田紳助の復帰が認められれば前田五郎が黙っていないのではないのだろうか。
 いろいろ事情はあるのだろうが、私として認めたくないのは差別である。あの人は良くてこの人はダメというのはきちんと説明し、世間が納得した上で決めるべきであり、説明責任を全うしないままあの人は良くてこの人はダメというのは一切認められない。それをなぜ分からないのだろうか。何か後ろ暗い事情でもあるのだろうか(注4)。

4 いきなり仕事を全て放棄した人間を信用することはできかねること

 島田紳助は引退する前に週に6本のテレビ番組を抱えていた。中には昔ほどの勢いがないものや番組開始当初とは明らかに内容が変わったもの、番組開始当初から視聴率が芳しくなく、打ち切りの噂が絶えなかったものもあったが、いずれの番組も昨秋の改編で終わる予定はなかった。もし昨年8月23日ではなく昨年末で引退すると言うのだったら制作元は困惑しないで済んだことだろうが、いきなり引退するというのだから困るのは制作元の放送局である。結局6本中TBSテレビ(東京都港区赤坂五丁目)・フジテレビ(CX、東京都港区台場二丁目)・朝日放送テレビ(ABC、大阪市福島区福島一丁目)制作の3本は打ち切り(TBSテレビ制作の番組と朝日放送テレビ制作の番組については題名に「紳助」という名前が入っていたため8月23日以降放送されずじまいになった)、日本テレビ(NTV、東京都港区東新橋一丁目)・テレビ東京(TX、東京都港区虎ノ門四丁目)制作の3本は続行となったわけであるが、後先考えずに仕事を放棄した人間を誰が信用するのだろうか。恐らく「どの面下げて出てくるんだ。どれだけ損害を与えたのか分かっているのか」と島田紳助が司会を務めていた番組の制作元やコマーシャルに起用していた企業(三浦工業〔松山市堀江町〕だけだったが…)は思っていることであろう。

5 (古い考え方かもしれないが)男性は一度決めたことを覆してはならないという考えが根強いこと

 全てを放棄して引退したことに憤慨する声がある一方で暴力団関係者との交流があったことを所属芸能事務所に知られたことで後輩に対して示しがつかないとして引退した島田紳助を「潔い」とか「立派だ」などと評価する意見もないわけではない。そういう状況でもし復帰するとなったら評価した方々はどのように感じるのだろうか。恐らく評価をひっくり返すことであろう。年寄りなど古い考えを持つ方々は「何だね、島田紳助という男は。暴力団関係者と付き合っていたことを芸能事務所に知られて示しがつかないと思って引退したはずなのになぜのこのことまた出てくるんだ。いい加減にして欲しいよ」と思うことであろうが、そのように後ろ指を差されても復帰しようと思うものなのだろうか。

6 人気司会者ではあったが素行などで問題があり、嫌われている面もあったこと

 島田紳助は2004年(平成16年)に女性マネージャーに対して暴行を働いた事件、2009年(平成21年)にあるお笑いトリオに対して恫喝(どうかつ)した事件をそれぞれ起こしている。前者については数ヶ月間謹慎しているのだが、これらの事件について今なお許すべきではないという考えを持つ方は少なくない。
 更にある新興有名企業のコマーシャルに長年起用されていたことでこの企業に対して不快な思いを抱く方々に嫌われているという面もある(注5)。もっとも、数年前にこの企業の経営事情もあったのか島田紳助の出演するコマーシャルは流れなくなったのだが、島田紳助の電撃引退直後、この企業に抗議の声がいくらか寄せられたのだという。私自身この企業に不愉快な思い出(二度中途採用面接を受けたがいずれも不採用になったことやその際に不愉快な経験をしたこと)があることからこの企業のコマーシャルは極力見ないようにしており、島田紳助が出演するコマーシャルが流れなくなっていたことに全く気付かなかったのだが、○○(この企業の名称)といえば島田紳助という印象が根強いことがうかがえる。

7 いつまでも昔の人にこだわり、進歩を感じられないこと

 島田紳助が引退した直後、誰が次代を担う司会者になるかという話が盛んに出た。中には下関市出身で、高校時代私の出身大学の学園祭で舞台に立ったロンドンブーツ1号2号の田村淳を挙げる声もあったようであるが、当時のその大学の学生の一人として光栄なことと感じている。
 一方で島田紳助は1956年(昭和31年)3月24日生まれだから引退当時55歳である。まだ若いと見る考えがあるが、還暦(60歳)までは5年しかないことや何年か前元日本テレビアナウンサーの徳光和夫・福留功男など60代以上の名司会者のテレビ界でのリストラがあったこと、いつかは追い抜く存在が出るとも限らないことを考えると今後何十年も安泰であるとは言えないであろう(更に誰もが避けられない「死」という問題も控えているし…)。つまり、復帰させたとしてもその先どうなるかは全く不透明であるし、「いつまで昔の人にこだわるのか」とか「もっと新しい人はいないのか」というような苦言を視聴者から呈される恐れがある。そういうことを無視してまで復帰させても良いのであろうか。

 いろいろ書いてきたが、私としてはこの問題については中立の立場をとらせて頂いている。つまり、復帰したいのなら厳しい状況に見舞われることを覚悟の上ですれば良いと考えているしあえて反対はしない。しかし、引退して一市民になっている以上、もうそっとしておいたほうが良いのではないかとか読者が面白がるだろうと思ってその行方を追いかけ回し、面白半分に事実かどうか怪しいことや悲惨な結末を迎えて欲しいかのようなことを書くのはやめて欲しいと感じている。
 勝手にこのようなことを書くのもどうかと思うのだが、私は島田紳助は去り際を見つけようとしていたのではないかと考えている。その勢いは一時期ほどではなくなっていたことや素行に問題があったこと、還暦が近いことなどが引退を考えた要因ではないかと思うのだが、賛否両論はあるがあのような形で引退できたことは彼として本望ではなかったのだろうか。ある日「大変申し訳ないけど、あなたを番組で起用するのは○月で終わりにさせて頂きます」と言われ、それで仕事を干されるのは人間として最大の屈辱である。更にこれから60代、70代となっていく中で老いていく自分をさらし続けられるだろうかという不安もあったことであろう。「ボロボロになるまでやり続けるか、それとも惜しむ声が出る時点で辞めるか」というのは議論が分かれるところであるが、島田紳助は後者を選んだのであろう。
 私は訴えたい。引退し、一市民になった有名人を執拗に追いかけ回し、事実無根なことを書き立てるのはやめて欲しい。同時にそってしておいて欲しい。いろいろ事情があるのは理解するが、有名人にも家族や私生活はあるし、面白おかしく書いたことが有名人及びその関係者を深く傷付けていることを考えて欲しい。誰も不幸になって欲しいとは思わないだろうし危害を加えられたくもないであろう。それを理解してくれれば良いのに…と思うのだがどうであろうか。

(注釈コーナー)

注1:最近テレビコマーシャルなどで名前を聞くようになり、勢いが盛んなように見える企業を指す。どこかは諸事情により記さないが、その大多数はどこかから好ましからざる問題が噴出して勢いを失ったり消え失せたりしている。

注2:例えば薬師丸ひろ子主演の映画「セーラー服と機関銃」(1981年〔昭和56年〕)は女子高校生がある暴力団事務所の後継者になるというあらすじの映画である。

注3:(関係は詳らかではないのだが)その一つが今福岡県で起きている連続発砲事件である。昨年は18件発生したが容疑者検挙に至った事件が全くないという体たらくである。私はかねてから福岡県警察本部(福岡市博多区東公園)のやり方に疑問を抱いているのだが、一体何をしているのだろうか。

注4:別の芸能事務所でもオーディションでの優勝を契機にデビューした女性アイドル歌手を素行が悪いなどの理由で2年ほどで解雇したのに対し深夜のテレビ番組で泥棒をしたことがあることを激白した女性タレントについては数ヶ月間の謹慎だけで済ませている。女性アイドル歌手側とすれば理不尽な処置となるのだろうが、彼女がこの件についてどのように思っているかは定かではない。

注5:この新興有名企業のどうかと思う点は次に挙げる通りである(事実の部分と噂の部分があるのでご留意願いたい)。
・社員(営業職員・採用担当者)が本名を名乗らない。
・会社説明会では「ノルマはない」と話していたのに二次面接のために営業所に赴くと自分のそばで「○○(目標)を達成しよう!!」と社員が叫んでいた。
・時間にルーズなところがあった。
・面接開始までの待ち時間にテレビコマーシャルの制作風景を収めたVTRを見せられた。
・面接担当者が「津山市や備前市まで行くことがある」と岡山営業所の管轄下にあるはずの地域まで行かせることがあることをほのめかしていた。
・面接担当者が交通事故を起こしたかどうか尋ねてきた。
・不採用者に対しては応募書類を送り返さないだけでなく連絡もしない。
・浜松ナンバーのこの会社のマークを付けた軽自動車が山陽自動車道福山東インターチェンジ(福山市蔵王町五丁目)で高速道路を降り、福山市中心部方面に走り去っていった。
・社名をコロコロ変える。
・統一社名を用いていない。
・電話帳で営業所を探すのが困難である。
・新卒でも中途入社でも最初は全員営業部に配属される。
・高額な商品を売り付ける。
・短期間で挫折する人が少なくない。
・業績を挙げられないと朝礼で罵倒される。

(AFTER TALK)

 本作を公開してから1年近くが経過するが、島田紳助に関する噂は「ドキュメンタリー番組が放送される」「『24時間テレビ 愛は地球を救う』(日本テレビ系)の24時間マラソンの走者になる」「今の思いを綴った本を執筆している」「○月から始まる番組の司会に起用される」…というように今もなお全く絶えることがない。更に復帰を望む意見も少なくないという。それだけ存在の大きなタレントだったことがうかがえるわけであるが、もし復帰が現実のものになった場合、どのようになるかがそこでは全く考えられていないことがどうかと思う。
 確かに島田紳助を凌駕する存在が出てきていないことやいくら暴力団関係者との関係が発覚しても一時期表舞台から姿を消しただけで終わり、何食わぬ顔をして再び活躍しているタレントが少なくないことを考えれば島田紳助の復帰を望む声が高まるのは当然の帰結だと思う。けれど、次に挙げる現実はどのように考えているのだろうか。
・本人が復帰を熱望しているのかどうか疑問があること。
・復帰することに対して「武士に二言はないというのにどういうつもりか」とか「男なら筋目を通せ」とか「なぜ暴力団関係者との交流があった人物が戻ってくるのか。けしからん」などと白眼視する方が少なくないこと。
・突然引退したことで放送局や企業に対して大きな損害を与えていること。
・同じ芸能事務所には濡れ衣を着せられて引退に追い込まれたタレントがおり、知名度こそ低いが彼に理不尽な思いを抱かせる恐れがあること。
・復帰して何をして欲しいのかまで言及する意見がないこと。
・復帰したとしても引退前ほどの人気を得られるかどうか疑問があること。
・これから60代、70代となり、容貌の変化や自分を追い落とす存在の登場、人気の凋落、病気などと向き合わなければならなくなること。
・担当していた番組の人気凋落や素行の悪さ、出演していたコマーシャルの減少など引退前から既にどうかと思う面は出ていたこと。
 要するに厳しい現実が待ち構えているのである。私としては別に復帰したければ復帰すれば良いと思っているのだが、この厳しい現実をどのように考えているのか。そして乗り切り、引退前と変わらぬ人気を得ることができるのか。先日、2009年(平成21年)夏に覚醒剤取締法違反で逮捕されたことで世間を騒がせた酒井法子が舞台に出演して芸能界復帰を果たしたが、やはり世間の目は厳しかったことを思うと復帰は難しいものがあるように思われる(このようなことを書くと抗議されてしまうかもしれないが…)。
 今後島田紳助がどうしていくのかは誰にも分からない。ただ、私として思うのは30年以上一線で活躍してきたことについて全くの黒歴史、すなわち存在しなかったことにして欲しくないことと執拗に彼の消息を追わないで欲しいこと、更に事実かどうか怪しいことを書き立てて彼の心身を傷付けて欲しくないことである。決して全ての言行が許されるわけではないのだが、理由はともかく一市民になった人間についてそっとしておくのが良いと考えるからである。そういう考えで本作を執筆・公開したわけであるが、果たして今後どうなっていくのだろうか。

(2012年〔平成24年〕12月22日追記)